メタバースで何かを学ぶことには、たくさんのメリットがあります。
けど、デメリットもあるので注意が必要です。
この記事では、メタバースを活用した学習(勉強)のメリット・デメリットを紹介します。
おそらく、もっとも大きなメリットは
「学習効率が上がる」
です。
これにより、短時間の学習で効率的に覚えたり、スキルを習得できます。
逆に、もっとも大きなデメリットは
「対応した教材の少なさ」
でしょうか。
むこう数年のうちに増えるのでしょうが、2023年現在は対応している教材はとても少ないです。
メリット・デメリットを総合的に考えると、メタバース学習は
「忙しい社会人の、新しいスキルの習得」
に向く学習方法だと思います。
教材が少ないこともあり、私たちみんながメタバースで勉強する時代はまだまだ先のことです。
けれど、ごく一部の人はすでにメタバースで学び、成果をあげ始めています[1]https://signal.diamond.jp/articles/-/1159:フォートナイトで英語を学ぶ「eスポーツ英会話」が小学生を中心に拡大、日本発メタバース教育企業。
本格的なメタバース学習時代の到来にそなえ、この記事で事前にメリット・デメリットを把握しておきましょう。
メタバースを学習(勉強)に活用するメリット6選
メタバース学習のメリットを紹介します。
メリットは以下の6つが考えられます。
- 学習効率が高く、学んだ内容が記憶に残る確率が高い
- 地方や郊外からでもハイレベルな教育にアクセスできる
- (教材によっては)ゲーム感覚で楽しく学べる
- 危険な物事や滅多に経験できないことを、安全に体験し学べる
- 教師への質問や、学習仲間との交流がしやすい
- (将来的に)安い学習費用で学べる可能性がある
それぞれ解説します。
① 学習効率が高く、学んだ内容が記憶に残る確率が高い
誰にとっても嬉しいメリットは
「学習効率が高く、学んだ内容が記憶に残る確率が高い」
です。
コンサル会社のPwCの調査[2]PwC:How virtual reality is redefining soft skills trainingで、メタバース・仮想現実を使った学習には
- 学習効率が最大4倍になる
- 集中力が上がる
- 学んだ内容に自信がつく
などのメリットがあることがわかっています。
メリーランド大学の研究[3]Science Daily:People recall information better through virtual realityでも、学習内容を思い出せる確率が上がることがわかっています。
これらの理由としては
- 学習が能動的になりやすい
- 擬似体験しながら学べる
などが考えられます。
要は「アクティブラーニング」になりやすいのですね。
社会人から人気のスキル「英会話」をメタバースで学べる、mondlyという海外サービスがあります。
このサービスでは英語を使い
- タクシー運転手に行き先を伝える方法
- ホテルにチェックインする方法
- ウェイトレスに注文を伝える方法
など、海外旅行で遭遇する場面を想定した、実践的な内容を擬似体験しながら学べます。
下の動画をみるとイメージしやすくなると思います↓
日本でもfondiという、世界中の英語学習者と英語で会話できるサービスがあります。
つまり、fondiを使うと英語しか通じない外国での生活を擬似体験できるのです。
メタバースで擬似体験しながら学んだことは現実世界でも活用しやすいです。
専門的な言葉を使うと「学習の転移」がしやすくなるからです。
だから学習効果が高いとも言えます。
② 地方や郊外からでもハイレベルな教育にアクセスできる
メタバース学習はオンライン学習の一種です。
よって、ネットがつながる環境なら
- 地方
- 郊外
などに住んでいても国内外のハイレベルな教育機関にアクセスできます。
これは、メタバースなら一瞬で別の場所に「移動」できるからです。
講義への出席はアバターで可能です。
仮に、あなたが過疎地域や限界集落と呼ばれるように住んでいるとします。
このような場所では、人口が多い都心部に比べ高等教育機関が少ない傾向があります。
けれど、メタバース学習なら過疎地域や限界集落からでも日本のみならず、世界中の教育機関にアクセスできます。
極端なことを言えば、日本の地方都市に住みながら
「世界一の大学」
とされている[4]Times Higher Education:World University Rankings 2022、イギリスのオックスフォード大学で毎日学ぶ。
こんなことも可能です。
いま大学の学費が高騰しており、その対策として実家に住み、実家から通学圏内の大学に通う人もいるでしょう。
メタバース学習なら実家から遠く離れた場所にある大学に一瞬で移動し、そこで学べます。
通学の交通費がいらないので、お金を節約することもできます。
これも「移動」できることのメリットですね。
③ (教材によっては)ゲーム感覚で楽しく学べる
教材による、というのが大前提ですが、メタバース学習には
「ゲーム感覚で楽しく学べる」
というメリットがあります。
これはゲームが大好きな人にとっては嬉しいメリットですね。
メタバース学習は
「ゲーミフィケーション」
と相性が良いです。
ゲーミフィケーションとは、簡単に言えばゲームの要素や仕組みをゲーム以外の物事に取り入れることです。
ゲーミフィケーションの方法はたくさんありますが、株式会社サイバーフェリックスが運営する英語学習サービス
「メタバース英会話」
はメタバース学習のとても良い例だと思います。
メタバース英会話では、生徒と教師が1対1で一緒に「フォートナイト」という大人気メタバースゲームをプレイします。
そして、ゲームを通して英会話を実践しながら学習できます。
ゲーム空間がそのまま英会話教室になる感じですね。
これなら、子供も英会話学習に興味を持ちやすくなります。
Robloxも教育に活用されることが多いメタバースです。
2022年7月、minicodersはRoblox内にMagic Schoolというゲームを公開しました。
これは、Robloxを遊びながら初歩的なプログラミングを学べるゲームです。
リスキリングや学び直しが注目されていますが、社会人が働きながら学ぶのはとても大変です。
仕事に加え、育児・家事などもこなしている人は尚更です。
れど、メタバースを活用しゲーム感覚で学ぶことにより学習が継続しやすくなります。
これも、メタバースで学ぶメリットです。
④ 危険な物事や滅多に経験できないことを、安全に体験し学べる
メタバースを活用すれば
- 交通事故
- 危険な環境での仕事
- ひとつの間違えが死につながる、ハイリスクな作業
などのような、危険だったり滅多に経験できないことを安全な場所から体験し、学ぶことができます。
具体例を挙げます。
車に乗っていると、交通事故にあう確率は意外と高いです[5]交通事故相談弁護士ほっとライン:交通事故に遭う確率。
けれど、いざ事故にあったら気が動転して上手に対応できないかもしれません。
そんなときのため、もし事前にメタバースで
- 衝突事故の衝撃
- 事故後の対応・関係各所とのやりとり
などを体験しておけば、事故にあっても冷静に対応できるようになるはずです。
かなり職業が限定されますが
- コンビニ店員→強盗が来たときの対応
- 消防士→大火事が起きたときの消化作業
- 外科医→ハイリスクで大規模な外科手術
などの、危険だったりハイリスクの事もメタバースなら仮想空間で何回も体験し、訓練することができます。
シンプルに言えば、メタバースなら滅多に起きないことを体験し、そこから学べるのです。
⑤ 教師への質問や、学習仲間との交流がしやすい
メタバース学習には
「教師やメンターに質問したり、学習仲間との交流がしやすい」
というメリットもあります。
この理由は以下の3つ。
- 感染症リスクが極めて低い
- 相手が忙しい状況かどうかがわかる
- 相手の表情やジェスチャーがわかる
それぞれ説明します。
感染症リスクについては説明不要だと思います。
メタバース学習はオンライン学習の一種なので、新型コロナを含めた感染症に感染するリスクが劇的に下がります。
なので、教師や学習仲間に質問したり、交流がしやすくなります。
次の「相手が忙しい状況かどうかがわかる」。
これはメタバース学習システムに相手の状況がわかるような仕組みがある時に有効です。
下の画像をみてください。
これは、山梨県の学習塾のメタバースです。
部屋のようなスペースが三つあり、左の部屋のそとに3人が並んでいるのがわかります。
並んでいる3人は質問待ちをしている生徒のアバターです。
こんな仕組みがあれば
- 教師に質問できるタイミングなのかどうか
- 教師はいま忙しいか
- 教師に質問するのに、どれくらいの時間がかかるか
などが視覚的にわかります。
じっさいこの仕組みで、学習塾では質問する学生が増えたそうです[6]NHK:“メタバース学習塾”が生徒を刺激?アバターが高める積極性。
3つ目は「相手の表情やジェスチャーがわかる」。
これは将来の話です。
2022年10月にMetaは新しいヘッドセットを発表する予定です。
このヘッドセットは装着した人の
- 目の動き
- 顔の表情
などを正確に読み取り、メタバース内でアイコンタクトができたり細かい表情をアバターに反映できるようになるそうです[7]Techcircle:Meta’s new VR headset will let you make eye contact in the metaverse。
このヘッドセットがあれば、教師や友達の表情やジェスチャーなどをより細かく理解できます。
メタバースでのコミュニケーションが現実世界に近いものになる、ということですね。
販売開始を待ちましょう。
⑥ (将来的に)安い学習費用で学べる可能性がある
最後のメリットはまだまだ先の、未来の話です。
数年後、メタバース学習は教室等での学習よりも安い費用で学べる可能性があります。
メタバースでの学習は仮想空間で実施されます。
だから
- 教室
- 建物
などの不動産がいりません。
これにより学習サービス運営にかかる場所代が減り、低費用の学習サービスの提供が可能になります。
場所代が不要でも、その代わりに学習コンテンツの費用が高い、という問題があります。
いま現在、メタバース向けの学習コンテンツを作るのはかなりのお金がかかります。
下の動画は太陽光パネル設置業者向けの学習用コンテンツです。
このコンテンツはサブスク型で、その料金は年間4000ユーロ(約58万円)。
かなりの高額の教材です。
こんな感じなので、短期的にみると、メタバースでの学習費用は高くなります。
けれど、PwCの発表では[8]PwC:How virtual reality is redefining soft skills trainingメタバース学習が普及すれば学習コストが下がることが示唆されています。
もしPwCが正しければ、将来的には現在よりも安い費用で学習できるようになるかもしれません。
大学等の学費が高騰[9]ファイナンシャルフィールド:大学の学費は昔と比べてどう変化している? 40年間の学費の推移を分析するなか、これは学習者やその保護者にとって明らかなメリットです。
メタバース学習のデメリット4選
つぎはメタバース学習のデメリットを紹介します。
- 対応している学校や専用教材が少ない
- 長時間の学習は心身に悪影響を与える恐れがある
- 固定費・初期費用がかかる
- 普及するまでは教材費が高くなるかもしれない
それぞれ解説します。
① 対応している学校や専用教材が少ない
明らかなデメリットとして
「対応している学校や専用教材の少なさ」
があげられます。
メタバース向けの教材をつくるのは、ひとつのゲームを開発するようなものです。
なので教材の開発コストが高く、量産は難しいです。
いまアメリカのMetaとVictoryXRという企業が提携し、大学向けのメタバース
「メタバーシティ(Metaversity)」
を増やしています。
メタバーシティは「大学のデジタルツイン」です。
けれど、げんざい(2022年9月)導入している大学は全世界あわせて11[10]VictoryXR:Virtual Reality Metaversity:What You Need to Know about Learning In The Metaverse。
あのMetaがヘッドセット提供や資金提供で支援しているにも関わらず、この数字です。
学習カリキュラムがすべてメタバース化されている訳ではないので、すぐ導入というのは難しいようです。
英語のコンテンツですら少ない状況ですから、日本語の専用教材はさらに少ないです。
なので、メタバースで満足できる学習体験ができるのはまだまだ先のことになります。
② 長時間の学習は心身に悪影響を与える恐れがある
メタバース学習では、専用のヘッドセットを装着することが多いです。
このような学習方法は長時間の勉強には向かず、心身に悪影響を与える恐れがあります。
※ヘッドセットは必須ではありません
ドイツのコーブルク大学はマイクロソフトと共同で、人がヘッドセットを装着しメタバース内で1日8時間仕事をして、これを1週間続けたらどうなるかを調査しました[11]ResearchGate:Quantifying the Effects of Working in VR for One Week。
その結果、以下のような悪影響が出ることがわかりました。
- 眼精疲労の増加
- 不安感の増加
- フラストレーションの増加
- 幸福度の低下
もし1日8時間ヘッドセットを装着したまま学習したら、同じような悪影響が出るかもしれません。
なので、今のところメタバース学習は長時間の勉強には向きません。
他にも、いわゆる「VR酔い」の問題があります。
VR酔いは女性の方が多いという、アイオワ州立大学の研究結果[12]Iowa State University:Researchers explore how people adapt to cybersickness from virtual realityもありますので、女性の方が男性よりもメタバース学習に向かない可能性があります。
ヘッドセットの着用について、特に注意したいのは幼児や小学生の利用です。
ヘッドセット市場における世界トップのシェアをもつMetaのMeta Quest2は、対象年齢を13歳以上としており、13歳未満の利用を禁止しています[13]Meta Quest:Meta Questセーフティセンターへようこ。
大阪大学の不二門尚特任教授は、ヘッドセットの利用について以下のように注意しています。
「メーカーの基準にもある通り、7歳までは目の発達の重要な時期なので使用させない。また、12歳までの子どもについても、引き続き目の発達期であることに変わりはなので、使用は極力慎重にしたほうがいい」
このように、子供の目への悪影響は特に大きいです。
メタバースで学習できるのは13歳以上。
大人も、長時間の学習は今のところ控えた方が良さそうです。
③ 固定費・初期費用がかかる
メタバース学習には
- インターネット回線
- VR用のヘッドセットもしくはパソコン・スマホ・タブレットなどの端末
などが必要です。
自宅で勉強するとき、これらが準備できていない場合は固定費と初期費用がかかります。
インターネット回線をひくと、固定費として毎月数千円の出費が発生します。
パソコン代はだいたい数万円と考えてOKです(ノートパソコンでも大丈夫)。
意外と費用がかかるのが、VR用のヘッドセットです。
いま世界で最も売れているヘッドセットのMeta Quest2の料金は6万円くらいです。
パソコンとMeta Quest2は、両方があった方が学習において融通がききます。
けれど、事情により片方しか購入できない場合はパソコンの方が役に立つと思います。
なので、メタバース学習ができる環境を家に導入すると
- 固定費として毎月数千円
- 最低でも初期費用として数万円
このような出費があります。
④ 普及するまでは教材費が高くなるかもしれない
メタバース学習のコンテンツを開発するとき
- ディレクター
- エンジニア(Unityエンジニア等)
- デザイナー(3DCGデザイナー等)
など、ゲーム開発と同じようなスキルをもつスタッフが必要になります。
しかもコンテンツの企画から開発完了までは時間がかかります。
よって、教材が広く普及するまでは教材の利用料金・費用が高くなる可能性があります。
ただ、メリットの
「⑥ (将来的に)安い学習費用で学べる可能性がある」
の部分で紹介したように、将来的には教材が安くなると考えられています。
メタバース学習が普及し、これにともない学習コンテンツが安くなることを期待しましょう。
引用・脚注
↑1 | https://signal.diamond.jp/articles/-/1159:フォートナイトで英語を学ぶ「eスポーツ英会話」が小学生を中心に拡大、日本発メタバース教育企業 |
---|---|
↑2, ↑8 | PwC:How virtual reality is redefining soft skills training |
↑3 | Science Daily:People recall information better through virtual reality |
↑4 | Times Higher Education:World University Rankings 2022 |
↑5 | 交通事故相談弁護士ほっとライン:交通事故に遭う確率 |
↑6 | NHK:“メタバース学習塾”が生徒を刺激?アバターが高める積極性 |
↑7 | Techcircle:Meta’s new VR headset will let you make eye contact in the metaverse |
↑9 | ファイナンシャルフィールド:大学の学費は昔と比べてどう変化している? 40年間の学費の推移を分析 |
↑10 | VictoryXR:Virtual Reality Metaversity:What You Need to Know about Learning In The Metaverse |
↑11 | ResearchGate:Quantifying the Effects of Working in VR for One Week |
↑12 | Iowa State University:Researchers explore how people adapt to cybersickness from virtual reality |
↑13 | Meta Quest:Meta Questセーフティセンターへようこ |